【よみもの】科学技術館 野依良治館長 メッセージ

「科学技術館を訪れる皆さんへ」

 科学技術館は、科学技術・産業技術の発展の過程で人類が手に入れてきたいろいろな仕組みや工夫を体験したり発見したりできるところです。理科や科学を通して自然の仕組みを知ることは、人生をより豊かにおくるための知恵となります。皆さんも、おもしろいと思うことがあったら、その興味と志を高く持ち続け、あきらめることなくそのことを考えてみたり、努力を積み重ねてみてください。
 社会を変えるような価値を創りだすことを「イノベーション」と言いますが、これからの未来を担う若い皆さんには、科学・技術に取組むことで、人びとの豊かな人生、国の繁栄、人類の文明持続のための「科学技術イノベーション」をめざし続けていただきたいと思います。

 私が小学生のころ、湯川秀樹博士が日本人として初めてのノーベル賞(物理学)を受賞されました。そのニュースは、私に立派な科学者への強烈なあこがれを抱かせてくれただけでなく、日本全体にも力を与えてくれたのです。それから程なくして、父に連れられ訪れた新製品発表会で「ナイロンは石炭と水と空気からつくられる」ことを知った感動が原動力となって、科学への想いは一層強いものとなりました。
 「科学研究で成果をあげて社会に貢献する。」その志をもって研究の道に進み、有機化学と出会いました。物質には、ヒトの「右手」と「左手」のように、鏡に映したような構造をもち、そして性質の異なるものがあります。それらを意図的に作り分ける「不斉合成」ができれば、多くの産業や製薬に役立ちます。その実現のために、まだ誰もやったことのない仕事、発明、発見に、常に努力をしてきました。そうして「不斉合成」を可能とする方法を世界で初めて実用化することができ、2001年のノーベル化学賞受賞に繋がっています。

 科学技術館は1964年の東京オリンピックの年に開館しました。それからおよそ半世紀がたち、その間に多様な分野の科学と技術が、暮しを豊かにするための新しい価値を次々に社会に向けて生み出してきました。その進歩によって社会の構造や人々のライフスタイルは大きく変革を遂げました。
 今また2020年にオリンピック・パラリンピックが東京で開催されます。このような国をあげたイベントは、革新的な技術の誕生とその成果が社会に拡がる好機でもあります。しかし、半世紀前に比べると人類の抱える課題は、「人口」「医療」「水」「食糧」「資源」「エネルギー」「教育」など、より深刻さを増しています。
 科学と技術はこれら人類の課題を解決するためにも貢献していかなければなりません。そのために多くの若い皆さんの力が必要ですし、その力を身につけていただくためには時代が求める新しい知恵と、たくましく生きる精神をあわせ持って欲しいのです。国や社会、そして大人たちには、そういった若い皆さんを支える責任があります。科学技術館もその責任を果たしていきたいと考えています。

科学技術館 館長 野依良治